病原性大腸菌O157

大腸菌は環境中に存在する細菌の一種で、人では通常大腸に存在しています。大腸菌は通常大腸に存在するだけであり無害、すなわち感染症は起こしませんが、時に病原性を持つものが存在します。

大腸菌は表面にある抗原によって細かく分類されており、抗原はO抗原とH抗原に分けられます。O抗原はその発見された順により番号が決められており、例えばO-157はO抗原のうち、157番目に発見されたことを意味します。

大腸菌の中には下痢などの症状を起こすものがあり、一般にはこれを病原性大腸菌と呼んでいます。病原性大腸菌はいくつかの種類に分類されており、腸管病原性大腸菌、腸管組織侵入性大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、腸管凝集性大腸菌などがあります。

腸管出血性大腸菌は、接着作用によって大腸に付着し、ベロ毒素と呼ばれる毒素を放出して腸管が水分を吸収できなくしたり、血管を破壊したりします。O抗原の中では、O-157が最も多く、その他にO26、O111、O121があります。

症状は腹痛、水様下痢、また血便を認めます。嘔吐を呈することは少なく、また、発熱も高熱のことは少ないといわれています。一般に潜伏期間は3-5日で、一週間前後で回復すると言われていますが、一部の重症例では溶血性尿毒症症候群hemolitic-uremic syndrome HUSを合併することがあり、命にかかわる場合もあります。HUSの合併は小児に多いとされています。O-157などの腸管出血性大腸菌感染症は英語の頭文字をとって、EHEC (イーヘック)と呼ばれることもありますが、菌の出すベロ毒素が腎臓の毛細血管内皮細胞を破壊してそこを通過する赤血球を破壊することで溶血が起き、腎臓の機能も損なわれて急性腎不全となり、尿毒症を発症します。腎臓から通常排泄されるべきものが排泄されず、それらの物質のため意識障害を起こす場合もあります。赤血球が破壊されるために貧血を認め、破壊された赤血球から出されるビリルビンによって黄疸を認めることもあります。血小板という出血を止める作用のある血球も低下することがあり、出血を認めます。

水分補給と電解質補正が治療の基本であり、下痢止めはHUSを合併する率を上昇させることから、使用しないことになっています。

腸管出血性大腸菌、EHECに抗菌薬を使用するかどうかは賛否両論であり一定の見解は得られていません。

HUSを合併した場合、透析をして腎臓で排泄されるべき物質を取り除く治療をします。HUS を発症した患者の致死率は1〜5%とされています。

腹痛、頻回の水様下痢、特に血便を認めた場合、もちろんこれらの症状を起こすのは病原性大腸菌だけではありませんが、いずれにしても自己判断で整腸剤や下痢止めを服用したりせずに、早急に医療機関を受診することをお勧めします。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする