ヒトパピローマウイルスワクチン (HPVワクチン) は、婦人科領域の癌である子宮頸癌、尖圭コンジローマおよびその他の癌の発生に関係する、ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus: HPV)の持続感染を予防するワクチンです。主に子宮頸がんを予防するため、子宮頸癌ワクチンとも呼ばれます。
2006年に、HPV 6・11・16・18型に対する4価のワクチンと16・18型に対する2価のワクチンが米国等の諸外国で承認されました。接種の適応は9歳以上で、3回の接種です。現在、2種類のワクチンが製造されており、世界でおよそ130か国で認可されています。接種は初性交渉の前までに済ますことが推奨され、小学生のうちに接種する国々が殆どです。HPVはさまざまな癌の原因になることが知られており、このワクチンの接種によってそれらの癌が予防されるとされています。
4価ワクチンは HPV 6・11・16・18型の4抗原が責任となる病変の予防に関しておよそ90%以上の有効率があると考えられています。海外での解析モデルによる推測では、ワクチンによって子宮頚癌の罹患と死亡を70-80%程減らすという結果が出ています。日本での解析では子宮癌の年間累積罹患率を半減できると推計されています。
アメリカや韓国などでは、4価ワクチンの尖圭コンジローマや肛門癌への効果を認め、男性への接種を承認していますが、日本では承認されていません。日本では2009年に女性への投与が認可されましたが、複合性局所疼痛症候群 (CRPS)、体位性頻脈症候群 (POTS)、慢性疲労症候群 (CFS) などという障害が、ワクチン接種後に副作用、正式には有害事象と言いますが、として起きるとしてマスコミに報道されました。また、医師の中には、子宮頸がんワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)という病態がワクチン接種後に起こると言っているグループもあります。世界保健機関WHOなどの調査ではワクチン接種との因果関係は否定されています。しかし、国内で報告された有害事象により2013年より厚生労働省は積極的な投与推奨を中止するよう医療機関に通達を出し、事実上の定期接種停止状態となっています。
WHOは、日本だけが接種の勧告を中止していることに関して日本を名指しで非難し、若い女性が本来なら避けられるはずのHPVの脅威に暴露され、『薄弱な根拠』に基づく政策決定は安全で効果的なワクチン使用を妨げ、結果として真の被害を招きうる、と厳しい見解を示しています。
これまでもHPVワクチンの有害事象に関する論文はいくつもありますが、ワクチン非投与群と比較して、重篤な有害事象が多いというデータはありません。
HPVワクチンとA型肝炎ワクチンを比較した12か国、平均12歳の、HPVワクチン接種1035人とA型肝炎ワクチン接種1032人を比較した研究では、重篤な有害事象の発生率は1.1%と1.3%で変わりませんでした。
10-44歳のデンマークとスウェーデンの女性を追跡した研究でも、自己免疫疾患、多発性硬化症、その他の脱髄疾患に関して、ワクチン群と非ワクチン群で差を認めませんでした。
さらにこの2か国の18歳から44歳までの女性を対象とした研究が2017年に発表されましたが、有害事象に関してはワクチン接種群と非摂取群で差を認めていません。
これまでの報告によればHPVワクチンは接種部位の疼痛は強いようですが、その他の重篤な有害事象の発生頻度はその他のワクチンと変わらないと言って良いかと思います。
もちろん他の薬剤やワクチンと同様、一定の確率で有害事象は起こりますが、パピローマウイルスの感染リスクを減らし、子宮頸がんをはじめとする悪性腫瘍の発症リスクを減らす利益も考えなくてはなりません。未成年に摂取することが多いワクチンのため、決めるのは親御さんであり、ご本人です。