献血にウイルスや細菌が混入していたのが原因で、輸血を受けた人が死亡するケースが2017年に2件起きています。輸血による感染は毎年10件前後起きています。
手術や治療で使われる血液は「輸血用血液製剤」と呼ばれ、国内100%自給の方針を取る日本では、すべて血液事業を担う日本赤十字社、日赤が集めた献血が由来です。同じく献血を原料とする「血漿分画製剤」では、過去にウイルス汚染による薬害エイズや薬害肝炎の問題が起きています。確率は極めて低いとはいえ、ウイルスや細菌を原因とした輸血による感染リスクはあります。日赤は薬害エイズ事件後の1999年から、献血のエイズウイルスやC型肝炎ウイルスの検査を導入し、混入が分かった血液は製剤化していません。それでも、感染初期でウイルスの量が少ない場合は検出できず、血液製剤を投与された人が感染・発症してしまうケースもあります。
2017年8月には、白血病の治療中の女児が輸血で大腸菌に感染して危篤状態に陥る事故があり、約1ヵ月後に亡くなられました。日赤は精度の問題などから、細菌検査はしていません。これまで皮膚表面の細菌が混入しないよう採血時に入念に消毒したり、献血者が体調不良でないか問診したりして予防に努めてきましたが、自覚症状のないまま病気で大腸菌を保有している人の血液を採血しまう可能性は排除できません。
また、近年は「ジビエ」と呼ばれる野生動物を食べるブームが新たなリスクになっており、全国の献血ルームでは
「生のブタやシカ、イノシシの肉を6カ月以内に食べた場合は献血をご遠慮ください」
と呼びかけています。2017年11月、輸血用血液製剤に混入していたE型肝炎ウイルスによって、がん治療中の80代女性が劇症肝炎で亡くなり、献血した人が、その前にシカの生肉を食べていたことがわかったからです。
ブタやシカなどがウイルスを保有するE型肝炎は、感染しても発症しなかったり、発症しても軽い症状で済んだりすることが多いウイルスですが、ウイルスが体内に定着することもないため、これまではシカ肉の消費が多く、感染者も多い北海道でしか献血にウイルスが混入しているかどうかの検査をしていませんでした。今回、E型劇症肝炎で亡くなった女性は抗がん剤で肝臓が弱っていたこともあって、劇症肝炎になったと考えられています。日赤は再発防止のため、同ウイルスの検査を全国に広げる方針を決め、それまでの間は、問診で生肉を食べたことがないかチェックするとしています。
血液製剤は、こうした感染の危険を常にはらんでいます。リスクを減らすため、厚生労働省は献血希望者に「問診には正確に答え、エイズなど検査目的での献血は絶対にしないでほしい」と求めるとともに、医療機関には他に治療法がない場合などに限り輸血を選択するよう呼び掛けています。
輸血は大けがをして大出血をした際に受けるイメージが強いかもしれませんが、実はがん治療でとても多く使われています。抗がん剤は、がん細胞を攻撃するだけでなく血液の細胞を作る骨髄の働きも低下させるため、血液の成分補充に輸血をすることがあります。国民2人に1人ががんにかかる時代に、血液製剤の重要性は増していると言って良いでしょう。それに対し、献血者数は減少が著しく、1996年度に年間600万人だった献血者は、2016年度は483万人に減っており、特に若年層の献血離れが著しいとされています。
血液は、科学が進歩した今日でも人工的に作ることができないうえに、生きた細胞であるため長期間保存することができません。わが国の血液は、健康な方々から無償で血液を提供していただく献血でまかなわれ、輸血を中心とした医療を支えています。安全な輸血を行うためには良識ある多くの献血者のご協力が必要です。