梅毒は、性行為関連で感染する性感染症の一つです。古くから知られている疾患ですが、近年感染者が急増し問題となっています。
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌に感染することで起こります。口、陰部、性器などの粘膜や、傷ついた皮膚などから侵入し、胎盤も通過できます。直接病原菌に触れることで生じる接触感染が主な形です。
感染すると、症状のない「潜伏期」と症状があらわれる「顕性期」が出現し、様々な症状を見せます。初期の主な症状は、感染部位である陰部や口腔内の潰瘍で、その後、体に赤い斑点が出現します。これらの症状は時間がたてば消えますが、この無症状の期間が3年から数十年あります。無治療で何年も放置すると神経や心臓・血管に影響が出て、最悪の場合死に至ります。
治療は、海外ではペニシリンGの筋肉注射一回投与が一般的ですが、国内ではペニシリンGの筋肉注射は使用出来ません。日本では、経口合成ペニシリン剤を、第 I 期で2から4週間、第 II 期で4から8週間内服することが推奨されています。
梅毒は歴史の授業でも取り上げられることがあるほど歴史的な病気です。その由来は、大航海時代にコロンブスがスペインに寄港した際、病原菌を持ち帰り、15世紀にヨーロッパで大流行した、という説が有力です。しかしそれ以前からヨーロッパに存在していたという説もあり、明確な起源はわかっていません。
梅毒を含む性感染症は、戦争や社会情勢の乱れなどにより増加します。梅毒感染者は第2次世界大戦後に急増しましたが、世界初の抗生物質であるペニシリンの開発と普及により激減しました。1960年代に小規模の流行がみられましたが、その後は散発的に新規患者が報告される程度でした。
しかし近年、感染者の増加が発展途上国だけでなく、日本、中国、米国、ヨーロッパなどでも報告されています。厚生労働省の感染症動向調査によると、日本国内の報告件数は2003年までは減少傾向で、千件以下が続いていましたが、2016年には4千件を超え、2017年には5千件を超えました。報告件数は10年間でおよそ10倍になっています。梅毒は過去の病気ではなく、現在でも注意が必要な疾患なのです。
梅毒に感染している妊娠中の女性から胎児に感染する「先天梅毒」の報告数が増加傾向にあることを受けて厚生労働省は2018年4月17日、感染症法に基づく医療機関からの梅毒の届け出事項に「妊娠の有無」を加える方針を決め、感染した妊婦数の把握と適切な治療による子への影響の軽減をはかっていく予定です。
梅毒は主に性行為で感染します。国立感染症研究所によると、昨年の報告患者は全国で5820人(暫定値)と44年ぶりに5千人を超えています。女性は20~30代に多く男性では20~50代に多く見られます。妊婦が感染すると流産や死産になりやすくなったり、子の目や耳に障害が出たりします。
厚生労働省によると、先天梅毒と診断された赤ちゃんは2012、13年は4人。15年は13人、2016年は14人と増加しています。梅毒と診断された妊婦は16年に33人とする厚生労働省研究班の調査データもあります。しかしながら、妊娠についての届け出は義務づけられておらず、梅毒と診断された妊婦の実態は分かっていませんでした。厚生労働省は年内にも、届け出事項に加える予定です。担当者は「早期に抗菌薬を服用すれば、胎児への感染は防げる」と注意を促しています。
また、梅毒は5類感染症であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければなりません。