人食いバクテリア

人食いバクテリアといわれる細菌にはいくつかの種類があり、例えば魚介類に付着するビブリオ・バルニフィカスと言った菌もありますが、主にはA群溶血性連鎖球菌といわれる細菌です。この場合「人食いバクテリア」は病名として用いられることもあり、正式な疾患名は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」と言います。確定診断のためには、症状としてショックがあり、さらに肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、壊死性筋膜炎を含む軟部組織炎、全身性紅斑性発疹、痙攣・意識消失などの中枢神経症状のうちの2つ以上の症状を認め、さらに病原体が検出されることとなっています。

この疾患は感染症法で5類の感染症に分類され、診断した医師は7日以内に保健所に報告する義務があります。国立感染症研究所によると、報告された患者数は2011年以降は、200人前後でしたが、2014年に280人、15年に434人、2016年には495人と年々増加してきています。

この細菌は一般には溶連菌と言われ、主に子どもに感染して、のどに炎症を起こすことで知られています。実は、決して特別な菌ではないのです。ただ、例外的に劇症化する「人食いバクテリア」は、一気に症状が進行し、全身に細菌が回ります。

本症の最も一般的な初期症状は疼痛といわれています。急激に始まり、重篤です。続いて、圧痛あるいは全身症状が見られます。疼痛は通常四肢で見られます。全身症状としては、発熱が最も一般的ですが、発熱のない場合もあります。錯乱状態や昏睡がみられることもあります。局所的な腫脹、圧痛、疼痛、紅斑のような軟部組織感染の徴候は、皮膚に傷があり、そこから細菌が進入したと思われる場合によくみられます。発熱や中毒症状を示す患者で黒紫色の水疱がみられると、壊死性筋膜炎や筋炎のような深部の軟部組織感染を起こしている可能性が高いと考えられています。手足の筋肉が急激に壊死するほか、多臓器不全になることもあります。「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の進行は急激で、数時間から1-2日で死に至ります。致死率は約30%と言われています。手足にある傷口から菌が入り込む可能性が考えられていますが、なぜ症状がひどくなるのかはわかっていません。一つには菌自体が変異を起こしており症状を劇的に悪化させるという説があります。もう一つは患者さん側の免疫力が弱いためと考えられています。患者さんの多くは高齢者と言われており、また、糖尿病の方やステロイドといった免疫抑制剤を使用している方がリスクと言われていますが、若年で健康な方でも発症することがあります。
治療としてはペニシリン、クリンダマイシンといった抗菌薬を投与します。四肢の壊死部分、ここには細菌がいると考え切除し洗浄しますが、場合によっては手や足を切断し、それ以上溶連菌による症状を進行させないようにします。しかし、手足は切断できますが、背中やおなかに感染巣がある場合には切り落とすことができず、治療はさらに難しくなります。

発症原因として最も可能性が高いのは四肢の傷口や爪白癬いわゆる水虫の部分から細菌が侵入することと考えられており、傷の部分は洗浄し、清潔を保ち、腫れてきたり、増悪の兆候があれば早期に医療機関を受診することが必要です。

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