ホスピタリスト

ホスピタリストとは、臓器によらず総合的に診療できるいわば病棟総合医ともいうべき存在です。ホスピタリスト医療(hospitalist medicine)は1996年に誕生して以来米国内で急速な広がりを示し、現在では多くのホスピタリストが従事しています。Robert Wachterの定義によると、ホスピタリストとは少なくとも75%の労働時間を入院患者さんを対象にした総合診療に充てる医師であり,外来のプライマリケア医から患者を引き継いで診療を行い、入院治療が終了、退院後はプライマリケア医に患者さんを戻す役割を担い、病院における医療のリーダーとして広く認知されています。

1900年代の後半から2000年代にかけて米国にてホスピタリストが急速に増加した背景には、米国において専門医がもたらす膨大なコストと長い在院日数の入院診療によって病院にかかる医療費が上昇したためで、多くの医療施設がホスピタリストを雇って対策を講じようという動きが始まりました。このような背景のもと,米国の医療市場においてはホスピタリストの数が上昇を続けました。Kuoらによる2009年の論文では,1997年から2006年にかけてホスピタリストによるケアを受けた患者は毎年およそ30%増加しています。この間2001年から2006年は、ホスピタリストが外科の患者を外科医と共同でケアする(co-management)ケースが増え、ホスピタリストによるケアを受けた患者の年増加率が11.5% と飛躍的に上昇しています。このような形をとることで外科医はより手術に専念できるようになると考えられ、ホスピタリストが外科医と共同で患者ケアを担うこのモデルは臨床アウトカムに好影響をもたらし、病院経営者の満足度も高いことが報告されています。

また、米国の大学病院では,ホスピタリストはこのように病院経営に貢献するだけではなく、内科研修の教育上重要な役割を担っていると認識されており、2000年までに84%の大学病院がホスピタリスト医療を導入しています。これは,ホスピタリストに24時間対応と,さらに臨床教育者(Hospitalist Clinical Educator)としての役割を期待してのことであり、これらの状況についてはいくつかの研究報告があります。ホスピタリストが臨床教育者として働くことによって研修医の満足度が上がることが期待されていて、加えて診療の質向上(Quality Improvement)のための活動のリーダーとなり、ガイドラインに則った治療の遵守活動など、組織的、臨床的な取り組みに大きく貢献することが報告されています。

日本においては,ホスピタリストに関する関心は高いが、このようなシステムを取り入れる動きが進んでいるとは言えない状況です。ホスピタリストが全米で広がりをみせた背景には、病院の資源を倹約して効率よく利用するための戦略として保険会社からの経済的圧力がありました。一方、日本でも医療費はますます大きな問題になっているにもかかわらず、公に特に専門医によるケアなどの医療費をコントロールする必要性が議論されることが少ない状況です。日本の病院のおよそ2/3のが経済的な危機に陥っているという事実を踏まえれば,日本での医療コストの削減は必要であり、ホスピタリストがこれに貢献できるかどうかを議論する必要があります。

日本ではいまだ総合診療医の定義があまり明確でないこと、専門医による治療へのアクセスが比較的容易であることなどによってホスピタリストが定着しにくい状況にあります。しかしながら、たとえば外科系の専門医が専門領域以外の問題、たとえばコントロールがうまくされていない糖尿病に対して最良の医療を提供できるのかという疑問は引き続き議論の対象となっていて、この点においてはホスピタリストモデルを適応できる可能性があるでしょう。

日本ではホスピタリストとして病棟だけで働くのは現在のところ困難と思われ、外来診療や、場合によっては訪問診療も同時にしなければいけないこともあるかもしれません。しかしながら、今後の日本の医療の事情を考えれば、ホスピタリストが活躍する領域を広げていく可能性を模索すべきかもしれません。

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