麻疹は麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症であり、空気感染、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強いといわれています。麻疹では空気感染することが問題です。通常の風邪やインフルエンザウイルス感染症では、咳やくしゃみで飛ぶ飛沫の中にウイルスが存在しますが、飛沫の飛ぶ距離は1.5-2 mと言われており、2 m以上離れていれば理論上感染しないとされています。しかし、空気感染では飛沫として空気中に飛散した病原体が、空気中で水分が蒸発して5 マイクロメートルの軽い微粒子これを飛沫核といいますが、飛沫核となってもなお病原性を保つものは、単体で長時間浮遊し、長距離を移動します。この飛沫核を呼吸により吸い込むことで感染します。さらに感染力が強力である麻疹ウイルスでは感染者がたくさんの人がいる場所へ行くことが問題となるのです。
麻疹に対して免疫を持たない方が感染した場合、10-12日の潜伏期間ののち、2-4日間のカタル期、3-5日間の発疹期、回復期へという経過をたどります。
カタル期では、38 ℃前後の発熱が2-4日間続き、倦怠感があり、小児では上気道炎症状と結膜炎症状が現れ、次第に増強します。発疹出現の1-2 日前頃に頬の粘膜に約1 mm 径の白色小斑点であるコプリック斑が出現します。
発疹期には一度体温が下がってから、再び高熱が出るとともに、これを2峰性発熱といいますが、特有の発疹が出現します。発疹は出現から約2日間で全身に広がります。発疹が全身に広がるまで、発熱が3-4日間続きます。
発疹出現後3-4日間続いた発熱も回復期に入ると解熱し、全身状態は回復します。
麻疹の二大死因は肺炎と脳炎であり、乳児では死亡例の60%は肺炎に起因するものである思春期以降の麻疹による死因としては肺炎よりも脳炎のほうが多いとされます。
また、麻疹に感染した後の重篤な合併症の一つとして、亜急性硬化性全脳炎があります。麻疹ウイルスの中枢神経への持続感染が原因であり、長い潜伏期間の後に進行性の中枢神経症状を発症し、最終的な予後は非常に悪いとされています。亜急性硬化性全脳炎発症のリスクとして知られているのは、2歳未満での麻疹感染です。潜伏期間は4~8年とされており、6~10歳頃に発症することが多いとされていますが、それ以外の年齢で発症する場合もあります。
診断は、麻疹ウイルス遺伝子の検出、麻疹ウイルス分離、麻疹特異的IgM抗体価の上昇、急性期と回復期のペア血清での麻疹IgG抗体の陽転化、あるいは有意な上昇をもって診断可能です。近年、症状が典型的ではない修飾麻疹の増加等により診断が困難な患者の割合が増加していることからウイルス遺伝子の検出等の病原体検出検査とIgM抗体、IgG抗体検査等の免疫学的検査の併用が望まれます。
唯一の有効な予防法はワクチンの接種によって麻疹に対する免疫を獲得することであり、2回のワクチン接種により、麻疹の発症のリスクを最小限に抑えることが期待できます。しかしながら、近年、10代後半から20代にかけて麻疹に対する免疫がおちて感染する場合があり、注意が必要です。高熱、皮疹など疑わしい症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。